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日本語教師コラム『「ん」の発音は何種類?』

「ん」の発音は何種類?

 

「空港」はベトナム語で「sân bay」というそうです。

 

ただ日本人が何気なく「サンバイ」と発音しても、よほど勘の良いベトナム人でもない限り、伝わることはなさそうです。

なぜなら日本人の言う「サンバイ」(たとえば「三倍」や「三杯」のような音)は、いずれも「ン」の音で口を閉じてしまっているからです。

この音をローマ字で表記すると「sambai」となり、「ン」の部分は「m」で表されます。

 

「新橋(しんばし)」のローマ字表記は、JRや東京メトロでは「shimbashi」となっていますが、道路上の行き先表示などでは「shinbashi」となっているところもあります。

 

多くの日本人からすると「shimbashi」と書こうが「shinbashi」と書こうが同じじゃないかと思ってしまいそうですが、「m」の音と「n」の音を区別する言語環境で生まれ育った人達からすると「shimbashi」と「shinbashi」、あるいは「sân bay」と「sâm bay」は別の音として認識されるようです。

 

逆に言うと日本語の「ん」は、「m」の音の役割も「n」の音の役割も担わされているという事になります。

実際、日本語を学んでいる外国人から「日本語は『m』の音も『n』の音も同じ字で書くから不思議だし、ちょっと気持ち悪い」と言われたこともあります。

 

それでは「ん」が担わされている音は「m」と「n」の2種類だけなのでしょうか。

先に結論を言ってしまうと、これは「分からない」という事になります。

 

様々な分野の専門家が、みんなで知恵を出し合って、戦後からと考えても少なくとも70年以上は経過しているにも関わらず、依然として結論は出ていません。

 

そもそもどうしてこんなに音の種類があるのかと言うと、「ん」自体は決まった音を持っておらず、後に続く音によって「ん」の音も決定されるという特徴を持っているためです。

 

例えば、「三溪園(さんけいえん)・三溪園・三溪園‥」と言った後、「三名園(さんめいえん)・三名園・三名園‥」と言ってみると、「ん」の部分の音が変わっているという事が日本人でも分かるはずです。

同様に「混濁(こんだく)・混濁・混濁‥」と言った後、「蒟蒻(こんにゃく)・蒟蒻・蒟蒻‥」と続けてみると、耳の良い方であれば「ん」の音の違いに気付かれるのではないでしょうか。

 

ちなみに「三溪園」の「ん」は「有声軟口蓋鼻音(ゆうせいなんこうがいびおん)」、「三名園」の「ん」は「有声両唇鼻音(ゆうせいりょうしんびおん)」、「混濁」の「ん」は「有声歯茎鼻音(ゆうせいしけいびおん)」、「蒟蒻」の「ん」は「有声歯茎硬口蓋鼻音(ゆうせいしけいこうこうがいびおん)」と、それぞれ名前まで付けられています。

 

名前が付いているということは、それらの音を区別する必要があるということであり、世界のどこかには、それらの音を別の音として区別する言語を使用している人達がいるのかも知れません。

 

「金(きん)」という音と「銀(ぎん)」という音は、日本人なら難なく聞き分けられるでしょうし、「金100グラムと交換しよう」と言うのと「銀100グラムと交換しよう」と言うのでは、意味に大きな違いが生じます。

 

ところが日本語を外国語として学ぶ人の中には、この「濁点(だくてん)の有無」(硬い言い方をすると「有声音(ゆうせいおん)と無声音(むせいおん)の違い」)が聞き分けられずに苦労している人達もたくさんいます。

 

「金」と「銀」を聞き間違えた学生に対し、教育熱心な方ほど「何でこんなことも分からないの!!」と言ってしまいたくなるかも知れませんが、日本人が「sân bay」を上手く発音できないように、これまでの生活環境や言語環境によって、聞こえる音も変わってくるようです。